2013年9月7日
イレーヌ最大規模の刊行書籍、ついに発刊!
弊社の自画自賛で始まりますが、刊行前から、知人の間で、装幀デザインの美しさや内容の充実度において、これまでにない期待とお褒めをいただいていました『塔のなかの井戸〜夢のかけら』が、ついに刊行の運びとなりました。
<塔のなかの井戸>は、ラドヴァン・イヴシックというクロアチア出身のシュルレアリストの散文詩集の題名で、<夢のかけら>は、トワイヤンの銅版画集(別にデッサン集もあり)の題名です。この二つの作品が、1967年に詩画集として一冊の本にまとめられ、銅版画版詩画集はトワイヤン装幀・限定89部豪華特装版として、デッサン版詩画集は限定900部普及版として、エディション・シュルレアリストから刊行されたのです。そして、豪華特装版89部のうち、記番1〜15の書籍には、トワイヤンが自ら手彩色を施すという豪華さで、今や値段がつけられない稀覯書となっているものです。
世界に15部しか存在しない稀覯書、その1冊がなんと日本にも存在していたのです。シュルレアリスムに関連した美術品を展示している東京恵比寿の素敵なギャラリー<LIBRAIRIE6>が、なんと8番本を所蔵されており、このたび、その超貴重本をお貸しいただくことにより、カラー刷りで復版することができ、弊社刊行として鮮やかに甦った次第です。
『塔のなかの井戸〜夢のかけら』2冊組本普及版
今回のイレーヌ版は、2冊組本として、 8番本を復版したカラー詩画集(詩文は もちろん本邦初訳)の他に、彩色銅版画 とは異なる構図を持つデッサン集をもう 1冊に復刻し、併せてトワイヤンへのブ ルトンの讃辞と、図版・写真を多数収録 した詳細な訳者解説を付け、その全貌を 明らかにする充実した内容となっており ます。
詳細は本書の解説に隈なく書かれているので差し控えますが、さすがにアンドレ・ブルトンが、その最後の夏(死の1か月前)に、両作品(散文詩と絵)を讃え、愛した作品だけあって、シュルレアリスムの数ある作品のなかでも、第一級の傑作といって差し支えないものと、版元として自信を持って世に送り出す次第です。
ラドヴァン・イヴシック

ラドヴァン・イヴシック(1921〜2009)は、日本ではまったく紹介されていませんが、フランスやクロアチアでは著名な詩人です。


彼は、1954年にブルトンとペレの招きにより、パリに移住、以後、ブルトンの若き盟友として行動を共にした気骨あるシュルレアリストです。

そして今回の散文詩は、彼の代表作の一つとしてフランス本国でも<伝説>となっている傑作です。

(詳細は本書解説でお読みください)
トワイヤン彩色銅版画

そしてトワイヤン(1902〜1980)。

彼女は、日本では知名度が低いですが、ヨーロッパではエルンストと同様、シュルレアリスムを代表する画家として、大変評価が高い画家です。おそらく日本では、彼女の画風を、地味で暗い、印象の薄い絵ぐらいにしか思っていない方が多いのではないでしょうか。

実は、彼女の画風は幅広く、全貌を目の当たりにすると、その才能の豊かさと凄味に舌を巻くインパクトを持っているのです。

今回収録した銅版画(ドライポイント)12葉と、デッサン12葉は、その一端を代表する作品といってよく、イヴシックの詩文と見事に呼応して、妖しい眩惑的なエロティシズムにみなぎっています。
このように、素晴らしい作品を刊行するため、弊社としても、これまでにない努力を傾注し、極小出版社としては、法外な予算をつぎ込んで制作した次第です。特に、普及版に付した訳者解説「狂おしい愛と幻視的エロティシズム」は、いまだ我が国に知られていない新事実の紹介に満ち満ちています。シュルレアリスム運動は、1954年、エルンストがヴェニスのビエンナーレで絵画部門のグランプリを受賞したという理由によって除名されたあと(ブルトンはエルンストを擁護したのだが、多数決で除名が決まった)、最古参は、ブルトン、ペレ、トワイヤンの3人だけになってしまったわけです。59年にペレが病死、66年にブルトンが亡くなると、弟子筋のジャン・シュステルの主導のもと、機関誌「アルシブラ」を拠点に運動が継続されますが、69年に個々のメンバーの意見の食い違いが表面化して収拾がつかなくなると運動が解体されました。
しかし、ただ一人の最古参メンバーであるトワイヤンを核に、本著者であるラドヴァン・イヴシックと、その伴侶アニー・ル・ブラン、そしてブルトンの『魔術的芸術』の共著者であるジェラール・ルグランら6名のメンバーが、決して運動の精神を過去のものとはしないというブルトンの遺志を継ぎ、マントナン出版(maintenant=今、現在進行の謂)を拠点に瀟洒な冊子を矢継ぎ早に刊行、旺盛な活動を繰り広げたことは、ほとんど知られていません。そのさまは、シュルレアリスム運動の最後の燦びやかな花火のごとくであり、訳者解説には、その刊行物や彼らの生きざまが物語られ、本邦では画期的な紹介の試みとなっています。
『塔のなかの井戸〜夢のかけら』銅版画復刻特装版
広告にもありますように、別売として、先述した稀覯書8番本のトワイヤンの銅版画12葉を、原寸大で復刻し、額装可能なオフセット版として収蔵した特装版を69部制作しました。この特装版は、あくまでトワイヤンの原寸大の絵の復刻に力を注いだ復刻特装版ですので、解説文は付されていませんが、原寸大で見ると、そのインパクトは強烈です。しかも、普及版とは違い、ケナフ紙というややクリーム色がかった厚紙に、色が鮮明に写し出されており、原画同様の鮮やかさです。トワイヤンの素晴らしさを少しでも伝えたいという思いで、極小出版社としては、破格の69部を制作しましたので、ぜひ読者の皆様も、この<魔術的芸術>の粋に触れていただきたいと思います。
そしてこのたび、稀覯書8番本をお貸しいただいた<LIBRAIRIE6>が、弊社の出版記念展として、『夢のかけら〜シュルレアリスム』展を開催されます。トワイヤンの版画をはじめ、カリントンやボナなど、女性シュルレアリストの作品を中心とした作品約30点を展示、併せて、稀覯書8番本をはじめ、先述したマントナン出版の瀟洒な刊行物も展示され、弊社新刊の本書(訳者署名入普及版及び銅版画復刻特装版)もお買い求めいただけますので、御覧いただければ幸いです。
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