2025年10月1日
『マダムD』普及本刊行及び特装版予約受付開始
『マダムD』という聞きなれない表題、これは「マダム・デュメルサン」すなわち「デュメルサン夫人」の略で、日本の読者には発音しにくいことから、あえて略称を表題とした次第です。作者は傑作小説「ド・フォカス氏」や「仮面物語集」でご存じの方も多いジャン・ロラン。19世紀末のパリで活躍した悪徳作家で、《頽廃》《デカダンス》を文字どおり代表する作家のひとりです。
今回、この世紀末の作家の作品、それも幻妖怪奇な中篇小説の翻訳を、なぜわざわざ刊行したのかといいますと、まず初めに日乃ケンジュの壮麗な絵画作品があったからです。日乃ケンジュといえば、当社刊ジャン・ジュネ詩篇『愛の唄』の素敵な挿画で好評を博した画家であったことをご記憶の読者も多いことでしょう。それから20年、久々にケンジュの最近作のペン画4点を拝見して、驚嘆を喫したのでした。
繊細緻密な筆ペンの描線
繊細緻密な筆ペンの描線が画布全体に蔓のようにみなぎりわたり、前例のない感覚といいましょうか、死と腐食と頽廃を凝縮したような異様で稀有な感覚に襲われたのでした。余白を絡みつくように埋め尽くしていく細密な描線と重厚な構成は、マニエリスムから派生したバロック絵画を思わせ、死臭漂う廃墟の光景はまさにゴシック。本格派としての技倆と天性のセンスがなければ、こんな絵はとても描けるものではありません。
というわけで、これら傑作を挿画として世に出したい思いに駆られ、これにふさわしい文学作品を探したところ、ジャン・ロランの傑作小説『マダムD』がぴったりくるのでした。これを邦語に翻訳し、日乃ケンジュに読んでもらって挿画掲載の承諾を得たあと、特装版用のオリジナル・エッチングに使う挿画制作をお願いしたところ、ケンジュは同小説を読み込んだ上で、さらに3点もの傑作絵画を描いてくれたのでした。こうして全7点の素敵な挿画を添えることにより、このたびの新刊『マダムD』は、壮麗にして堂々たる、詩画集ならぬ「物語画集」として世に出ることができたのです。

造本デザインを、久方ぶりにアトリエ空中線の間奈美子さんにお願いしましたところ、本文紙に高級紙を使用して、しかも糸かがり製本という、普及本にしては非常に豪華で重厚な本に装幀していただきました。まさに愛蔵本として、この販売価格ではお買い得の逸品ですので、ぜひ手に取っていただければと思います。


さらに特装版も準備しています。今回も名匠・須川誠一氏による造本です。革装本ではなく、間奈美子さんが装本を手掛けて須川氏とタイアップした、お二人による初めての試みです。普及本とは異なるアラベール高級紙を本文用紙に使用し、それを須川氏がフランス装で糸綴じ、日乃ケンジュのオリジナル・エッチング1葉を添えて、天鵞絨貼りの須川氏手製ポートフォリオに装幀するという、極めて洗練味の高い瀟洒な仕上がりになる予定です。1977年スフィンクスプレス刊「愛書家地獄」に似た装いをイメージされればよいでしょうか。
2026年1月の完成を予定していますが、購入ご希望の方は、お早めに弊社までご予約ください。
(予定仕様・ご予約方法 ⇒ 新刊書籍欄 を御覧ください)
もうひとつ、お知らせです。日乃ケンジュの傑作群を一堂に展示する個展が開催されます。挿画に使用した絵の原画を目の当たりにされれば、その迫力に来場者は圧倒されることでしょう。ぜひご来場くださいませ。

マダムD出版記念 日乃ケンジュ「廃園のバロキムス」展 開催のご案内
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